施術者がクライアントとの間に相互に安全場を誘導されると,クライアントの身体システムが自己組織化/調整を自発的に開始するという現象の発見がこの技法の基になっています。施術者の意図や技法特有の戦略によって,変化が方向付けられたり,操作されるべきではなく,そのタイミングで必要なことを身体が起こすのを手助けすることに焦点があります。したがって,役割は違えど,施術者とクライアントの対等性が重要になってきます。
3回のシリーズは,イールドの技法の基礎であり,本質です。施術者の純粋なプレゼンスと,クライアントとの間の相互作用から誘導される場によって,全体が接地面を通してイールドすることで,身体システムが応答性を向上させ,様々な入力に対して受容性を上げる,つまり変化に適応するための土台を築くシリーズとなります。
それに続く,5回のシリーズでは,身体構造の要,肚の収まり処である骨盤腔を中心に,腹腔,胸腔というように身体内に空間とつながりを引き出していきます。3回シリーズの提供には,計9日間,8回シリーズはさらに26日間,計35日間のトレーニングを修了したイールダーによって提供されます。
Rolf Movement認定トレーニングに参加しているときに紹介されたYieldという”あずける”動き,発生学,及び細胞生物学的観点からの細胞の持つ足場依存性との関連性からある程度説明されるワークです。Rolf Institute講師のCarol Agneessensと共にこのYieldの動きの探求を進めました。その後,Yieldを統合的なシリーズの組み立てと翻訳を進めました。Dr Ida Rolf Instituteの教授会でこの技法を発表した時の反響が大きく,それ以降Rolf Movement認定トレーニングで主にロルファー向けにYieldの技法を教えはじめました。その後,ロルファー以外の方々からも,この技法を教えて欲しいというリクエストがあり,間合いのコンセプトを加えてYieldに特化した働きかけをYielding Embodiment Orchestraitonとして教えています。
ロルファーと非ロルファーとの違いというより,施術者単位での違いになるでしょう。この技法に最も影響するのは,それぞれのプレゼンス,存在状態です。ロルファーは,その背景に構統の統合があるため,意識するしないに関わらず,それがセッションに反映します。ロルファーに限らず,ある技法を学んで,その技法ならではの視点や身体への捉え方,哲学が身体に染み着いていることが,いつもいい形でセッションに反映するとは限りません。クライアントの身体が望む変化のむしろ邪魔や制限になってしまう可能性があります。ある技法や情報を取り込むということは,利点もあれば,不利な点もあります。バイアスがなるべく少ない知覚状態から,身体を捉えるためには,余計な予備知識がなければないだけ有利になる可能性があるかもしれないのです。実際に,イールドのワークショップで,ボディワーク未経験者だけで実習すると,驚くような変化が起こることがよく観察されます。探求していく過程では,時に何かを学んだり吸収する必要がでてきますが,一番最初にイールドの技法を学んで,本質的な肚や間合いの感覚をまず育てておくことには大きな意味があると考えられます。 そこが下地になっていると,自分に本当に必要な情報かどうかを嗅ぎ分ける感覚が鋭くなって,そぐわない講習にムダな時間やお金を浪費しにくくなります。
多くのセミナーは,本能的に自分がわかっている状態にアクセスしないように,学び続けるように依存させて囲いこむか,日本人が宗教的/文化的にどうしても馴染めない土壌で生まれた神秘主義を絶対視させる巧妙な仕掛けが存在します。イールドはあくまで,生命現象に学びデザインされた技法です。
この技法は,とても繊細で簡潔なタッチが適切な間合で用いられますが,効果的に構造の変化がもたらされます。しかもクライアント自身が持つ自己調整の知性を動員することによって,変化が持続的で意義のあるものとなることを目指しています。それは施術者が必要だと思い込んだ変化を無理強いするコンセプトとは,対極にあるものです。
このワークの鍵となるのは,施術者の知覚状態です。セッションを通じて,内側の身体意識のみならず,施術者のクライアントを含む周囲の空間に対する感覚を持ち続けることが,重要となります。この知覚状態は,発生した微細で自動性の波を捉えている時に,施術者がうまく”流れ”に入るのに役立ちます。さらに,身体の外側と内側を同時に感知することによって,本質的な施術者のあり方,プレゼンスをしっかりさせることになります。
ある特定の形や青写真があるわけではありません。何が来てもびくともしなようなを鋼のような堅強さを目指すのではなく,周囲の場で起こっていることに敏感に反応する空間に対して開かれた知覚と,常に身体の中心かつ重心である肚が坐っている状態になることを目指しています。解剖学的には骨盤腔を中心に身体内空間が確保されている状態,そのためには四肢を中心に,隔膜や関節感の連携と共鳴が引き出されていることが前提になります。身体システム全体が同期して様々な刺激にして反応できる状態,オーケストラ的身体共鳴を目指しています。
強い圧力を用いる施術や侵襲的な治療でバランスを崩し易い,感受性が高い方や,自らが持つ内発的変化による変容を求めている方には適した繊細なワークといえます。特にロルフィングシリーズやある程度まとまった形で身体技法を受け終えた方が,その先に求める変化を無理なく引き出します。受け手の身体システムが,その時一番望んでいる変化を必要なだけ安全に進めるポテンシャルがあります。すべての応用的な動きの大元になっているのがイールドの動きなので,あらゆるパフォーマンスを根底から変える力を持っています。
基本的にはどんなタイプの方でも,どのようなタイミングで受けて頂いても構わないです。